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Forget me not, forever...
​DC
赤井×明美前提 赤井×ジン 
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全年齢向けです。

2016年6月13日
フローティングハート

夜中の来客は特に珍しいことでもないのだが、その夜の客は特別で。
「すみません」
ジンの姿を目に留めるなり、赤井秀一はそう謝罪の言葉を口にした。
「まさかあなたが訪ねて来てくださるとは思っていなかったので……」
今の赤井は、FBIの諜報員エージェントとして活動している。
ジンのいる――そしてかつて彼が所属していた『組織』とは敵対関係にあった。
ジンの銀髪は夜目にも目立つ。
好奇心旺盛な隣人や、口の軽い学生時代の友人達にジンと会っているところを見られるのはまずい。
半ば強引に腕をつかんで家の中に引きずり込む。
「何かあったんですか?」
声を潜めて尋ねると、ジンは赤井に掴まれた腕を乱暴に振り払う。
「何もなければ、来ちゃいけねぇのか?」
苛立った声で問い返されて、口ごもる。
「いえ……。ですが、あの……」
はっきりしない返事に、ジンの機嫌がどんどん悪くなっていくのがわかる。
「たまたま、近くに寄っただけだ」
ステイツこちらで『組織』絡みの任務があったのだろうが……それなら事前に伝えておいてくれれば。
「そうですか、……参ったな」
困ったように、頬を掻く。
その仕草に、ジンがますます機嫌を損ねるのはわかっているのだろうが。
「なんだ、来ちゃ迷惑だったか。女でも連れ込んでるなら、別に俺は」
赤井が老若男女問わずモテることはジンも知っているし、今は住んでいる国さえ違う。
互いの立場からしても、そうしょっちゅう会うことはかなわない。
男なら、体が疼いて当たり前で、心さえ許していないのなら、そういう関係性の相手がいても構わない。
それは、以前から言っていることだ。
だが。
「違います! 違いますよ!! そうじゃなくて!!」
必死に否定するところが、余計に嘘くさく思えて、気分が悪かった。
「……帰る」
そう言って踵きびすを返すジンを、
「本当に違います! 待ってください!!」
赤井の声が追う。
玄関の扉を開けたところで、彼の腕に抱きしめられた。
「話を聞いてください、ジン」
「なんだよ」
「あのですね、このところ、ちょっと。FBIあちらの仕事が立て込んでいて。食事して寝るだけで、その、なんというか、俺も忙しくて」
言い訳ばかりが続き、いい加減イライラしてきたところで、ジンを抱く赤井の腕に、ギュッと力が入る。
「だから、あの、散らかしてるんで、あなたが嫌がるかと……、その……」
「――構わねぇよ、んなもん」

***

本人の言う通り、赤井の部屋は酷く散らかっていた。
組織でライとして生活していたあの部屋は、ここまで散らかっていなかったように思うが。
というよりも、整然としていたように思う。
持ち物の少ない男だったし、時間ができれば大概ジンの部屋に入り浸っていたのだから、当然と言えば当然だとは思うが……、
脱ぎ散らかされた服や、流しに突っ込まれた皿が、当時は感じさせなかった赤井秀一という人間の青臭さを突き付けてくる。
誘われるまま寝室に入れば、煙草シガーの山と酒の臭い。
性急にベッドに押し倒されたかと思えば、視界の端に数日前に履いていたらしいジーンズがうつる。
「お前な」
流石にここまで散らかっているとは想定外だった。
たまにはまともに掃除しろ、と言いかけて、ふと、窓際の一角だけが切り取られたように秩序を保っていることに気づいた。
カーテンも引かれていない出窓に、信仰の証が立てかけられ、そのすぐ横に、銀の写真立てが置かれている。
今よりずいぶんと若い――ジンの記憶の中にいる『ライ』。
だが、そこに映った子供のような笑顔は、ジンの知らない表情で。
彼の傍らには、『彼女』がいる。
シェリーの姉だ。名は忘れたが。
ジンがその手で始末した、あの女。
銀のクロスにかけられたフラワー・リースに、舌打ちする。
その音が聞こえたのか、ジンのシャツに手をかけようとしていた赤井が、動きを止める。
ジンの視線を目で辿った顔に、困惑と悔悟の色が宿る。
「すみません。あなたという人がいながら」
そう言って窓辺に手を伸ばした赤井は、静かに笑顔を伏せた。
胸元で十字を切る。
短い、祈り。
赤井は、その指で、リースから、青く小さな花を選んで抜き取ると、ジンの前にそれを差し出した。
生花のようだが、この時期の花ではない。
プリザーブド・フラワーにされたそれにかけられた想いは、

「もう、今は、あなただけです」

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