top of page
居待ちの月が嗤う夜
​DC
務武×優作
age restrictions R-18

挿入を含む性行為の描写があります。

2016年11月3日
フローティングハート

これまでーー、
と、浮遊するように熱に痺れた脳は、緩慢に思考する。
これまで、自分は、1人でも、生きていけると思っていた。
けれど、運命は残酷で、自意識過剰な若造を叩きのめすのに、何の躊躇もないようだった。
生まれてこの方女性に不自由したことなどない優作が、生まれて初めて強烈に惹かれたのは、あろうことか十以上も年上の、しかも同性である男で、その上、彼はーー赤井務武は、優作の心をじわじわと磨耗させることを好んだ。
「気位の高いお前が」
とは、以前、務武が優作に下した評価だった。
「俺にだけは、まるで女のような態度をとる」
だから余計に虐めたくなるのだと、組み敷いた優作の顔が屈辱に歪むのを見ながら、彼は言った。
意地を張って、その夜は一度も声を出さずにいてやったら、優作の中で最後の射精を終えた務武に、大きな手で、頬を撫でられた。
「もう、終わったんだから、いいだろう? お前の声を、聞かせろよ」
その子供扱いに苛立って、優作が思い切り噛みついたら、彼は、一瞬驚いたようだったけれど、すぐに、心底愉快そうに笑い始めた。
「ハハハ、いいぞ、優作。それでいい」
血の滲んだ掌など気にもとめない風で、腹を抱えて笑われるのが、優作には理解できなかった。
「俺の望む女になるよりも、俺にふさわしい男になれ、優作。お前はやっぱり、最高のパートナーだ。いずれ……いや、今はいい。この話は、今度だ」
その『今度』は、いつ来るのだろうか。
彼の謎かけじみた命令の意図は、まだ、掴めない。
自分が、彼にーーあの、なにもかもを超越したような存在にーーふさわしい男になれるような気もしない。
出会わなければ良かったのかもしれないと、弱い自分を棚に上げて、彼を責めてもみた。
あの日、あの場所で、出会わなければ。
もしくは、彼の値踏みするような瞳と、視線を合わせさえしなければ。
あるいは、『僕に、何かご用でしょうか』などと言わなければ。
幾つものifを重ねる。
そんなことでは満たされないくせに。
これではまるで恋を知ったばかりの少女だと、自嘲気味に思って、優作は、深いため息をついた。

グラス越しの月は冴え冴えと優作の孤独を映すように嗤っている。
知らぬ間に務武に植え付けられた痛みの感情は、優作の内部で密かに発芽し、その根は彼の心を取り巻くように張り巡らされている。
務武とは一晩の遊び、ただそれだけのはずだったのに、気づけば、とうに雁字搦めだ。
もう、どうやっても、抜け出せない。
流れる雲が、月明かりを遮った。
カラン、と溶けた氷が転がり、甘く酔わせる薫りに漣をたてる。
ふっ、と水面に目を落とせば、自分自身の揺れる瞳と目があった。
ただ待つだけの時間は残酷で、切り刻まれるような痛みから逃れたくて、禁じられている場所に、手を伸ばす。
スラックスの前立てを押し上げる性器の形を、布越しになぞった。
まだ中身の残るグラスを自分の身体と窓の間の狭い隙間に置いて、優作は、そっと片足を窓枠にかける。
務武が手ずから注いでくれたウィスキーの、その底に潜む誘惑の臭いを感じ取れないはずがなくて、けれど、少しでも逃れたくて、目を伏せた。
『こいつを飲んで、大人しく待っていろ』
務武はそう言ったけれど、はしたなくも期待に膨らみつつある自身の浅ましさへの嫌悪感も手伝って、いつもより僅かに苦みの強い液体は、半分ほど干したところで、どうしても喉を通ってくれなくなってしまった。
せっかく用意してくれたものを無駄にすれば、彼は機嫌を損ねるだろうか、と、女々しいことをぼんやりと考えながら、窮屈なジッパーを下ろして、腰を浮かせる。
少し、ほんの少し、慰めるだけだ。
ここからなら彼の帰宅を事前に知ることは可能だし、務武が寝室の扉を開く前に、ズボンを元に戻せば、問題ないはずだ。
下着ごと履き口をつかみ、股の途中まで、一気に引く。
片足だけを高くあげているから、ずいぶん中途半端な姿勢だが、それでもやはり、緩く勃起した自分の性器は丸見えで、自然、顔が赤らむ。
務武のものと比べても、遜色は、ない。
と、思う。
けれど、自分は、務武を抱くことなど考えられなくて、彼の下で喘がされることを、確かに望んでいた。
女になるな、と言われたくせに、彼の手に掛かれば、優作は、どうしようもなく雌であり続ける。
務武の愛撫を思い出しながら性器を撫でれば、嬉しそうに零れる先走りの涙に、眦が熱くなった。

Glass%20of%20Drink_edited.jpg

Wix.comを使って作成されました

  • Facebook
  • Twitter
  • Instagram
bottom of page