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夕焼けは甘い嘘の香り
​DC
ジェイムズ×赤井
age restrictions R-18

挿入を含む性行為の描写があります。

2016年11月3日
フローティングハート

どうしてこんなことになっているのか、と、回らない頭で、必死に答えを探している。
顎が痛い……呼吸がつらい……もう、いつからこうしているのかも分からない。
他に人気のない会議室。
オフィスチェアに腰掛けている男は、新入りの部下が自分の脚の間に跪き、涙混じりに奉仕するのを、冷ややかに見つめている。
最近白の混じり始めた髭を、つまらなそうにいじっているせいで、口元の表情は読みとれない。
毎度下手だと叱るくせに、どうしてこの男は、俺にフェラチオばかりさせたがるのだろうか。
互いに物足りなさをくすぶらせるだけのこの行為に、何の意味があるというのだろう。

「最近、どうも調子が悪くていけないね」
なんてめったに弱音を吐かない人が意味深なことを言うから、こちらは本気で心配したのだ。
彼を父のように慕っていたからこそ、父のように失うことが怖かった。
「そ……れは、どういう……」
問い返す、声が震えた。
何か身体に不都合があるのだろうか。
十代の頃から息子のように面倒を見てもらっているのだから、考えてみれば、ジェイムズだって、もういい年のはずだ。
正確には知らないけれど、渡米したばかりの頃から、俺と連れだって歩いていれば、誰もが親子だと信じて疑わなかったのだから、それなりの年齢であるのは確実。
俺が気づいていないだけで、深刻な不調を抱えているのなら、どうしたらいいのか。
彼の仕事を肩代わりするには、俺では経験が浅すぎる。
ならば、せめて、せめて彼の負担にだけはならないようにしなければ……。
病院で検査を、と勧めても、きっと聞き入れてはくれないだろう。
少しは摂生を、と言っても、素知らぬ顔をされるだけだ。
情けない話だが、俺がコントロールできるとすれば、毎日の食事くらいのもの。
それだって、基本的には外食に頼っている。
ジャンクフードを減らすように気を使うようにして、月に一度はフレンチをジャパニーズレストランに変えるよう進言するくらいなら、許されるだろうか。
とはいえ、基本的に俺は奢られる身だから、あまり強くは出られないのが辛いところだ。
無理に要求を通そうとすれば、それなりの返礼は求められるはず。
支払いはセックス一度で済むだろうか、駄目なら、多少マニアックな真似をさせられる程度には目を瞑ろう。
ゲイシャ・ガールの格好をして、と以前言われたことがあるから、着物の着方も練習しておく。
それからーー、
「どうしたんだね、赤井君。怖い顔をして」
おかしな方向に流れ始めた思考を遮ったのは、ジェイムズその人だった。
ギシ、とチェアを鳴らして、俺の目をのぞき込んでくる。
「顔が赤いよ。何を考えていたんだい?」
伸ばされた手が、俺の頬に触れる。
いつもなら暖かく感じるはずの指先が、ひんやりと冷たくて、彼の言葉が事実だと知った。
真面目な相談を受けている最中にセックスのことを考えて一人熱くなっている、なんて、恥ずかしくて、死んでしまいそうだ。
しばらくご無沙汰だったとはいえ、いくらなんでも節操がなさすぎる。
きっと、呆れられただろう。
はしたないとか、淫乱だとか、セックスの最中に言われることなら、少しも構わないけれど……、
「……すみません」
うなだれた視界に自分の下半身が入り、顔から火が出そうになる。
「元気だねえ、君は」
からかうように言われ、おいで、と手招きされて、数歩の距離を詰めれば、ジェイムズは、俺の腰を抱き寄せて、既に緩く起きあがり始めている部分に、折った膝を押し当ててきた。
ぐりぐりと痛いほどの力で布越しに刺激され、寸の間、息が詰まる。
「ジェイ、ムズ……」
そのまま快楽の波に流されてしまいそうになるのを堪えて、執拗に責めてくる彼の身体を、両腕で拒んだ。
「ちょっと……ちょっと、待ってください」
話の最中に余所事を考えていたのは俺がいけないし、その想像だけで勃起したなんて取り繕いようのない失態だけれど、過去の経験からして、酒とセックスで中断した話は、十中八九忘れ去られる運命だ。
「深刻な話では、なかったのですか?」
俺の問いに、ジェイムズは数度瞬きをして、それから、わざとらしいほど深いため息をついて見せた。
「そう。深刻な話さ、とても……。……君にとっても、ね」
俺にとっても、ということは、やはり本当に大事なのだろうか。
ジェイムズ一人の問題でなくなるほど、辛いのだろうか。
それなら、どうして俺は、今まで気づかなかったのだろう。
ヒリ、と喉が痛んで、ジワリと視界が滲む。
奥歯を噛みしめて揺さぶられる感情をやり過ごし、どうにか、ジェイムズの目を見返す。
憂いに満ちた瞳。
長いため息とともに、とっくに力の抜けていた俺の腕を取る。
「老いたくはないものだねえ……本当に」
手首を捕まれ、手のひらをジェイムズの下腹部に押しつけるようにされて、ゆっくりとそこに滑らされて、ようやく彼の意図に気づいた俺は、本当に間抜けだとしか言いようがない。
彼がこういう男だということくらい、充分承知していたはずなのに!
「最近、どうにも勃ちが悪くてねぇ……」
「なっ、なん……っ、あっ、あんたって人は!」
思わずそう叫んでから、しまった、と口を押さえたが、もう遅い。
俺に痛みを与える方法なら何万通りだって考えつくのであろう意地悪な男は、柔らかい物腰の声でゆったりと微笑みながら、
「若い君には、この悩みが理解できないんだろうねぇ」
君は早漏気味だし、とのんびり言いがかりをつけつつ、一瞬の体裁きであっさりと俺を床に沈めることで、彼がその地位にいる理由の一端を、俺の鼻先に突きつけた。
仕立てのいい革靴の先が、這いつくばった俺の、目の前で揺れている。

***

ぐにぐにと革靴の底で揉みこまれる俺の性器は、痛いほど勃起していた。
ジェイムズのいいようにされて悦び、下着の中で俺の欲をかき混ぜ、ぐちゅぐちゅと淫猥な粘液と戯れている。
計三度の射精はボクサーパンツの許容量を越えてスラックスにまで染みを作り、ジェイムズはにやにやと意地悪く笑いながら、それを拡げるのにご執心だ。
深く、浅く、角度を変えて、何度も。
「やっ、んっ、ジェイムズ、やだ……」
高みに無理矢理引き上げられていく感覚に、身悶える。
それでなくても、もうほとんど唇の間に挟んでいるだけになっていたジェイムズの性器が零れ落ちて顎を掠めた。
唾液にまみれててらてらと艶めかしく濡れそぼりながら、ほとんど反応らしい反応をしていない彼のものを目の前にして、泣きそうになる。
少しでも俺を感じてくれて、僅かでもそれを示してくれるなら、下手だ駄目だと言われ続けている口淫も練習する気になるけれど。
けれど、これでは、本当に、ただただ自尊心を奪われるばかりだ。
何も俺は、生来マゾっ気があるとか、彼の奴隷になりたいとか、そんな理由でジェイムズの理不尽に応えているわけではない。
これなら、いっそ、自分の快楽に溺れてしまったほうが、マシだ。
吐き出してしまったものを追うことはやめ、ジェイムズの足の動きにあわせて、腰を揺らす。
「おやおや。あれだけ達っておいて、まだ自分ばかり気持ちよくなろうというのかい? 君は本当にいけない子だね」
上体を起こしたことで、眉を顰めるジェイムズと目が合った。
「そんなはしたない子に躾けた覚えはないけれど、教育を間違えたかな?」
息を呑む。
同時に、ぐっと強く先端を押しつぶされた。
堪えきれずにあげた悲鳴は、入ってこようとする空気の固まりとぶつかって、喉の奥で破裂したようだ。
目の奥が熱くて、痺れた思考は用をなさずに、ぼろぼろとこぼれ落ちる涙は、拭っても拭っても止まらなかった。
泣きながら迎えた四度目のオーガズムに、もう出せるものは残っていなくて、俺は、ただ、震える指でジェイムズの足にしがみつくことしかできなかった。
自分の身体を支えていることすらできない俺に、男は冷たく言う。
「いつまで泣いているつもりだい? 私は、まだ、悦くなっておらんよ」

***

結局、どこまでも続くような長い夜の中、俺がジェイムズを射精にまで導けたのは一度きりで、ほとんどずっと喘がされるだけ喘がされた。
ジェイムズ自身を埋め込んで貰えることのなかった後孔が、物足りなさに切ながるのを、自分の指で慰めているのを肴にされて、それでようやく反応を見せ始めた彼のものにキスをしたら、やっと『いい子だ』と誉めてもらえた。
自分のはしたない孔を弄りながら、拙い舌先での愛撫を丹念に繰り返して、少しずつだけれど質量を増していくのが嬉しくて、つい、『ジェイムズのが欲しい……』と口走ったら、顔面に精液をかけられた。
不意打ちだったけれど、どこに何を、と具体的に言わなかった俺が悪いと言われて、確かにその通りだと思ったから、舌をつきだして『もっと』とねだってみたけれど、二度目はなくて、挙げ句の果てには、ジェイムズの見ている前で男性器の形を模した張型を使わされ、自ら極めさせられて。
彼がシャワールームを使っている間に、俺は、汚した会議室の始末をする。
いつものことだ。
それなのに、やけに胸がつかえるようだった。
それでようやく、今日はほとんど性玩具か何かのように扱われたのだと今更気づいて、涙が止まらなくなった。
自分の精液で汚れた下着とスラックスを元通りに履き直すことで、虚しさは一層増して。
みっともなく泣きじゃくって、戻ってきたジェイムズを、子供のように幼稚な語彙で攻め立てた。

あげく、『おやすみ』すら言わなかったなんて。
あんなに失うことが怖いと思っていたのに、キスどころか一つの挨拶もしなかったなんて。

『ジェイムズ!』
跳ね起きて叫び、ぎょっとする。
声が出ない。
痛む喉は、ひゅうひゅうと空気の摩擦音を鳴らすばかりだ。
今日は非番なのがせめてもの救いだが、これでは、ジェイムズに『おはよう』も『行ってらっしゃい』も言えやしない。
もし今ジェイムズを失うようなことがあったら、俺が彼に向けた最後の言葉は、本当に最低なものになってしまう。
せめて、見送りだけでも……、
そう思って慌ててベッドから降りようとしたら、すぐさまふらついてバランスを崩し、床に顔面からたたきつけられた。
多分、その音で驚かせたのだろう。
飛んできたジェイムズに俺はベッドに連れ戻され、
「ゆっくり寝ていなさい」
と、いつになく厳しい声で命じられた。
「朝食は、リビングに用意してある。熱が上がるようなら解熱剤を。食べられそうなら、昼食はデリバリーでもとりなさい」
汗ばんだ髪をそっと退けるように指で掬って、ジェイムズが俺の額に口づける。
「夕方には戻るが、何かあったら、ポケベルにかけてくるように。くれぐれも、無理はしないこと。いいね」
「……ぁっ」
「行ってくるよ」
背を向けて歩き去ろうとする男の服の裾を掴んで、引き留める。
「何だね、赤井君」
「……ぁー……」
『だっこ……』
おずおずと伸ばした両腕を、ジェイムズに向けて突き出す。
「……ぇーう……」
絞り出した声は意味にはならなかったけれど、それでも、ジェイムズは、自分への呼びかけだと認識してくれたらしい。
苦笑して、俺を抱きしめてくれた。
「相変わらずの甘えた坊主だ」
その頬にキスをして、肩に顔を預けたら、また泣きそうになって、慌てて離れる。
「行ってくるよ、秀一」
行ってらっしゃいが言えないかわりに、その背が玄関扉の向こうに消えるまでじっと見送った。
彼が完全に見えなくなってから、『秀一』と撫でられた場所を、なぞるように撫でる。
それで俺はようやく少しだけ安心して、愛用の毛布を頭からかぶって、枕に突っ伏したのだった。
 

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