top of page
赤井さんが銃を乱射する話。
​DC
優作×赤井
age restrictions PG-12

一般的な少年漫画レベルの暴力/流血/死に関わる表現があります。

2016年9月28日
フローティングハート

急ごしらえで作らせた地下への階段は、歩く度に高い音を立てて、精神を不安定にさせる。
彼の為にはよくないと分かっていたが、何しろ発注をしてからすぐに米国へ渡ってしまったので、気づくのが遅きに失した感がある。
工事をやり直そうと何度提案したかしれないが、彼自身に拒否されてしまっていた。
「いつでも好きな時に使っていいと言ったはずです、先生」
泣きそうな声で訴えられれば、強引に彼の為の場所を取り上げるわけにもいかず、そのままになっている。
「入るよ、秀一君」
聞こえてなどいないだろうけれど、一応、礼儀として一言断り、扉を開ける。
いつもの彼なら、私の姿を見ただけで嬉しそうに抱き着いてくる。
けれど、ここにいるときは別だ。彼は、私の気配などまるでないもののように振る舞い、僅かに振り向きもしなかった。
飾り気のない壁に向かって、真っ直ぐに銃を構えている。
呼吸を整える様子もなく、彼は、ただがむしゃらに発砲しているように見えた。
弾倉から弾がなくなれば、惜しげもなく放り捨てて、次の銃を構える。
彼の心に巣食う闇の咢は、虚無の深淵に続いていて、時折――ふとした瞬間に、彼自身を飲み込んでしまおうとする。
暴力的なやり方だが、自我を守るために彼に与えられた方法はこれしかなく――それを教えた自分よりも年上の男に恨み言の一つも言いたい気持ちは抑えて、彼の気が済むのを待つ。
この国の日常ではおよそ聞かないはずの音が、二、三十分も続いていただろうか。
ある種自傷にも似たその行為の終わり、彼はその眦から一筋の涙を零れさせ、”Daddy...”舌足らずな声を震わせて、呟いた。
握られていた銃が、指先から離れ、床に当たって、跳ねる。
自らの身体を掻き抱くようにして座り込んでしまった彼の身体を抱き寄せると、彼は不思議そうに私を見上げ、「父さん……」と呼んで、力の入らない指で私を求め、縋ろうとする。
「父さん、いかないで……、父さん……」
寝室でセックスを求めてくる時も、彼は追い詰められたように切なげに私を呼ぶけれど、『先生』と呼ぶ時よりも随分と甘えた声を出すものだから、彼にこんな風に思われている相手に、嫉妬しないと言えば嘘になってしまう。故人相手に――しかも、彼の実の父親に――醜い感情を持ってしまうのは、良くないとわかっているけれど。
理性で心がどうにかできるのなら、彼は、とっくに救われていなければならない。
「大丈夫、私はここにいるよ」
彼の耳元に囁きを落として、見た目よりも随分と軽い身体を抱き寄せた。
「疲れたかい? 上へ行って、少し、おやすみ」
その瞼の上に触れるだけのキスを落として、目を伏せさせる。
震える睫毛の上で、溢れた涙が玉になって弾けた。

Glass%20of%20Drink_edited.jpg

Wix.comを使って作成されました

  • Facebook
  • Twitter
  • Instagram
bottom of page