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それはまるで恋のような
​DC
ジン×ライ
age restrictions PG-12

性行為を匂わせる単語表現があります。

2016年5月27日
フローティングハート

すぐ脇を通過していく弾丸を涼しい顔で見送って、その男は、読んでいた本を閉じた。
少し前からハマっているらしい厚めの洋書。
一度興味本位で中を覗いたが、陳腐なラブロマンスで、俺には合わないと思ったのを覚えている。
男は……ライは、それを、飲みかけのウィスキーが載ったテーブルに置く。
「ああ、ジン。お帰りなさい」
嬉しげに微笑むものだから、ライが勝手に部屋に入りこんでいたことだとか、綺麗に片付いていたはずのテーブルに空になったウィスキーのボトルが何本も並んでいることだとか、奴の煙草の臭いが気にくわないだとか、そんなことはどうでも良くなりそうだ。
「コート、預かりましょうか?」
近づいてくる男の手を払い、ウォッカが背後で扉を閉めるのを待ってから、ついさっきまで奴の体重が載っていたソファに座る。
ライはそれを待っていたかのように、ソファの後ろから抱きついてくる。
「帰宅の挨拶が銃声なんて、以前より情熱的に思えるんですけど、溜まってます?」
クスクスと笑いながら言うライを睨んで、
「……沸いてんのか」
と問えば、臆面もなく
「そうかもしれませんね。今丁度あなたのことを考えていたので……」
と返して、俺の肩に体重を預けてくる。
「乗るな、重い」
押しのけようとしても、流石に組織でコードネームを得られるだけの男は、こんな姿勢からはねのけられてくれるほど甘くはない。
「いいじゃないですか、久々にあなたに会えたんですから。ねえ、ジン。少しはウォッカ以外の弟分の面倒も見て下さいよ」
そう言いながら乗り出してくるライは、うっすらと色香の蕩けた目を俺に向けてくる。
「チッ」
こいつ。
「久々ってほどじゃねぇだろ。3日前にも会った」
「ノーカンです」
「5日前にも会ってる」
「論外です」
「10日前にも会っただろ」
「あれは任務です」
3日前には組織の廊下で会ったので挨拶がてらの会話をしたし、5日前にはライの部屋に指令を伝えに行ったし、10日前にはバーボンも含めた3人であの方から受けた任務を遂行している。
そのどれにも満足していないらしいライに、
「……12日前」
とその日付を告げるのは、少しばかり悔しい気もする。
あの日はあの方とのしつこいセックスから解放された後で、誰とも会いたくなかったはずなのに、部屋で待っていたこの男に強請られると、どうしても追い払うことが出来なかったのだ。
あの時の自分の痴態……、
……思い出したくもなかった。
「……ねえ、ジン。俺は毎日でもあなたに会いたいんです」
俺の髪で遊びながら、ライが言う。
「バカ言え」
明日の約束でさえ、無意味で無価値。
いつ誰が命を落とすか知れないこんな組織の中で、しかもお互い忙しい身だ。
たしかにライと俺とは身体の相性は良い方だとは思う。
だが、互いの精神までも求め合うようになれば、終わりだ。
グラスに残った飲みかけの酒を喉に流し込む。
「俺にも下さい」
そう言ってくるライの口元へとグラスを運んでやれば、奴は唇を薄く開けて、俺の手から注がれたいと、無言で強請ってきた。
唇から顎の線を伝って滴る琥珀と、上下する白い喉が、ひどく官能的なコントラストを生む。
「……ジン……」
珍しく酔っているのか、酔っているふりなのか。
「……キスしてください……」
などと言ってくるのは。
こぼれ落ちる雫を掬い上げて口元へと運べば、甘ったるいそれを指先から嬉しそうに舐めあげるから。
「ジン……」
誘ってくるその唇に口づける。
それはまるで従順で気まぐれな猫。
その喉元に指を絡めてそっと撫でれば、今夜はきっと甘い声で啼くだろう。

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