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君の嘘、僕の嘘。
​DC
灰原×赤井 
age restrictions For ALL

全年齢向けです。

2016年9月12日
フローティングハート

『彼』が私たちのクラスに来たのは、江戸川君が私たちの前から姿を消してから一年以上も経ってからのこと。
私たちはもう三年生になり、春が過ぎ、夏が来て、じき、秋になる。
そんな、二学期の始まり。
クラス替えは合ったけれど、いつものメンバーは変わらず同じクラスのまま。
小林先生は――先日寿退職した。
江戸川君抜きではすぐに飽きるだろうと思っていた子供たちは、今もなんだかんだで『少年探偵団』を続けている。
工藤君は蘭さんと正式に付き合い始めて(あれで付き合っていなかったというのだから不思議)、喧嘩しつつも毎日楽しそうにしている。
私も――元の姿に戻ってもよかったのだけれど。
決心がつかなかった。
18歳。

あの頃に戻っても、私には頼る相手も求めてくれる人もいない。
それなら、今のままでいいと、思ってしまった。
前へ、前へ、急かされるように生きていた子供時代を、ゆっくりと生きてみるのも悪くはないと。

「工藤秀一です」
そう言って微笑んだ少年に、教室中が騒めいたのも、無理はなかった。
彼の瞳は日本では珍しい色をしていたし、肌の色も雪のように白くて、緩くウェーブのかかった黒い髪がそれらを引き立たせて。
そのうえ、少し陰りのある目元が、彼に謎めいた魅力を付加していた。
アメリカ育ち、母は英国人。
今は親戚の家にホームステイ中。
日本語は少し苦手だとはにかむ彼は、私と目が合うと、悩ましげにそっと唇に人差し指を押し当てる。
秘密は共有しよう、とでも言うつもりなのだろうけれど。
「ふざけるんじゃないわよ!! なんで、あなたがここに!!」
思わず立ち上がって怒鳴ってしまって、すぐに後悔した。
みんなの視線が私に集まっている。
彼はきょとんとした表情を作って、それから、じわりと瞳を潤ませた。
江戸川君より、泣きまねが上手い。
「灰原さん?」
「哀ちゃん?」
両隣から同時に戸惑ったような声をかけられ、蹴り倒した椅子を引き戻す。
「ごめんなさい。なんでもないわ」
取り繕う私の言葉に、
「彼女、僕の従妹なんです。昔、僕が、酷いことをしてしまって。きっと、それで怒ってるんです」
そう、彼がかぶせてくる。
「ごめん」
こうなったら、私だって折れるしかなくなるのが、学校というところ。
「いいわよ。許してあげるわよ」
その一言で、あっさりと彼の席は私の隣に決まり、
「よろしく」
差し出された手を思い切り強く握り返したら、彼はほんの少し顔を歪めたけれど。
そこに込めた意味なんて、まるきり、なにひとつ、理解なんてしていないに違いなくて。
「すまない」
そう言って俯く彼の指先は、小さく震えていた。

あの眼鏡の隣人が姿を消し、赤井秀一までもが消息を断ったと聞かされて、私がどれほど動揺したかなんて、この少年は知らない。
工藤君のありとあらゆる人脈を駆使して、私のありとあらゆる技術をつぎ込んで。
そうして、一年。
どこをどう探しても彼に繋がる情報は出てこず、私たちはその生存の可能性を諦めるしかなかった。
なのに、どうして、今頃になって、こんな姿で、私の前に立っているのか。
「馬鹿……」
呟くことしかできない私から、彼は目を逸らす。
たった一言が切り出せず、たった一歩が踏み出せず、時間は過ぎていく。
授業の内容は耳を素通りしていき、時々視線だけが気まずく絡む。
私と彼は、一番近い距離で、誰よりも遠くあった。

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