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青い鳥は籠の中で 後編
​DC
​優作×赤井 ジェイムズ×赤井
age restrictions R-18

挿入を含む性行為の描写があります。

2016年11月20日
フローティングハート

「ひっ、ぁ……! やぁっ……、やめて、うぇっ、せんせ……ぇっ!」
汚れたシャツのままでバスルームに押し込まれ、身構える間もなく頭から熱い湯を浴びせられた。
ジェイムズならともかく、優作からこんな風に乱暴に扱われたことはなくて、喋るたびに容赦なく口の中に流れ込んでくる水よりも、濡れたシャツの胸元に伸びる優作の指の動きが、責め苦だと思う。
硬く尖った胸の突起は張り付く布を健気に押し上げていて、それを見られているだけでも恥ずかしいのに、優作に触れられて抓み潰され、呼吸が阻害される。
力の抜けた赤井の身体を、優作は後ろから抱えるようにして、浴槽の縁に座らせる。
優作の両足をさらに跨ぐようにして開脚させられ、玩具を咥えたまま天を仰ぐ己の中心がはっきりと見えた。
優作の手が、伸びてくる。
ぴん、と指先で先端を弾かれ、眼球の奥で火花が散る。
「あっ、うっ、やぁっ」
何がどうなっているのか、もう、赤井には理解できなかった。
赤井に反省しろと言ったのはジェイムズだ。優作ではない。
優作は怖くないよと言ったのに、さっきから、怖いことだらけだ。
何もかもが突然で、赤井の言葉はひとつも聞き入れてもらえない。
でも、それよりも、優作が何も話してくれないのが、一番怖い。
だって、優作は、話したいと言ったのに。
いつものように、これから何をするのか教えてくれれば、どんなことだって、きっと我慢できるのに。
これまでも、嫌なことはたくさんあったけれど。
でも、優作が、それがどうして必要なのかを教えてくれたから。
ちゃんと、赤井の為にしてくれているのだと、分かったから。
だから、怖くはなかった。
なのに、どうして――、
完全に恐怖に呑まれてしまった赤井にとっては、優作の行動のひとつひとつが、恐ろしかった。
優作の指が、小さな孔の縁にかかって、そこに刺さっているものを、そろそろと引き抜いていく。
外して欲しいと自分が望んだはずなのに、気づけば必死で身を捩っていた。
「……や、だ……!」
暴れるのを押さえつけられ、更に抗いがたく恐怖が募っていく。
「暴れると、危ないよ。怪我をすると、厄介だ」
急所を掴まれて言われれば、それ以上の抵抗ができるはずもなく。
「先生、嫌だ……許し……許して……」
震える懇願の声も、無視される。
「許すも許さないも、私は何も怒っていないよ」
赤井の快感を絶頂の間際で堰き止めていたものがずるりと引き抜かれる瞬間、弾けるように思考が飛んだ。

「あっ、あぁっ、あっ」
弧を描くように白濁をタイルへと飛ばしながら、赤井は、びくびくと全身を痙攣させていた。のけぞらせた喉は彼が嬌声をあげるたびにひくひくと動き、恍惚の表情に彩りを添える。
「ッ……ンン!」
一際大きく跳ねて、赤井はきつく目を閉じた。最後の精液を出し切った身体が弛緩して、あれほど怖がっていた相手へと、くたりと身をゆだねてしまう。
その、直後だ。
「……ふあ……ぁ?」
射精とは明らかに違う、けれど、射精とよく似た感覚が、ぞくりと内側から這い上がってきた。それが何かと自覚をする暇も与えず、優作の手が、萎えた赤井の性器を、下から掬い上げる。
「どうせなら、全部、出してしまおうか」
耳元で囁かれ、もう一方の手で、下腹部を撫でられた。
「こっちも、そろそろ限界のはずだよ」
『嫌だ』と叫ぶ間もなく、黄色く色づいた透明の液体が綺麗な放物線を描いて落ちていく。
それはびしゃびしゃとタイルを叩き、強いアンモニア臭を残して、排水溝へと吸い込まれていった。

泣きじゃくりながら許しを請う赤井をどうにか宥め、汚れた身体を清めてやりながら、優作は心中深くため息をついていた。
彼を怖がらせたかったわけではない。
泣いている赤井は可愛いと思うけれど、それでも、笑っていてくれる方がいいに決まっている。
長時間尿道バイブを挿れっぱなしにされていた赤井が失禁しても構わないようにバスルームへと連れてきたものの、今朝の失敗で過敏になっている彼にどう言うべきか悩んだ末に、きちんと説明しなかったのは、まずかった。
「ごめんね、秀一君。ただ綺麗にしてあげるだけのつもりだったけど、君があまりに可愛くて、つい、意地悪をしてしまった。謝らないといけないのは、私の方だよ。君は、何も悪くない」
『だから泣かないでおくれ』と震える身体を抱きしめて、祈るように願う。
「秀一君。許してほしい」

 

***

 

結局、何も言い出せなかった。
優作の部屋で、優作のベッドで、一緒に寝たいなどと、言えるわけがなかった。
優作ですらこうなのなら、ジェイムズが許してくれるはずもなくて、怒っていないというのなら、もう、呆れ果てているのに違いない。自分を見下ろすジェイムズの表情を想像しただけで足がすくんで、差し伸べられた優作の手を振り払って、よろめく足で、地下に逃げこんだ。
思い通りにならない身体が恐ろしくて、赤井は、鳥籠の中で独り、一睡もできない夜を過ごした。
そういえば丸二日何も食べていないと気づいたのすら、明け方になってからだ。

 

***

リビングでコーヒーを飲んでいたジェイムズは、近づいてくる足音に目を上げ、
「早いな、優作。君はさっき寝たばかりだと――……」
言いながら振り向いて、入り口で立ちすくんでいる赤井と目が合うと、ふっと唇の端に笑みを乗せた。
「おはよう、秀一」
二人きりの時でなければ――それもよほど機嫌のいい時でなければ――呼ばない名で赤井を呼んで、手招きする。
「おいで。そんなところで立っていないで」
ジェイムズの呼びかけに、けれど、赤井は力なく笑って、視線を空に彷徨わせるだけで、動こうとはしなかった。
「どうしたんだね」
カップを置いて立ち上がるジェイムズの動きを、赤井は、目だけで追って、
「……ジェイ、ムズ」
弱弱しく、まるで独り言のように、彼に呼びかける。
一呼吸ごとに近づいてくるジェイムズに、握った手が、無様に震える。
怯えているのだとは、思われたくない。
「秀一? どうした?」
目線を合わせるように屈んでくれたジェイムズが、赤井の耳元に、囁く。
「言いたいことがあるなら、話してみなさい」
抱きしめられて、首筋を細くて柔らかい髪にくすぐられ、強張っていた身体から、余分な力が抜けていく。
「……昨日の、こと、で……」
「昨日?」
不思議そうに片眉をあげるジェイムズに、また言葉が詰まりそうになる。
「昨日の、朝……おねしょ、した、の……」
自分で口にするのは恥ずかしくて、穴があったら入りたい気持ちだった。
「……本当に、」
『ごめんなさい』を口にする前に、特大の溜息と口づけが落ちてきて、言葉を奪う。
「君は、そんなことで、私がまだ怒っていると思うのかい? 私も随分小さい男に見られたものだね」
わざとらしい溜息を吐くジェイムズの言葉の裏側には、含み笑いが忍びきれずに見え隠れしていた。
「君も、わざとしたわけじゃないさ。そうだろう? 我々は、この件をもう水に流すべきではないかね」
「……そう、ですが……。俺は、呆れ、られた……か、と、思って――」
怖かったのだと訴える、その唇はまた、ジェイムズに塞がれる。
「呆れていたら、こんなことはしないよ」
ぽんぽんと背中を叩かれ、ゆっくりと呪縛が解けていくようだった。
「それで? 君は、そんなことを確かめるために、上がってきたのかい?」
問われ、赤井はようやく、自分が何をしに来たのか思い出した。
それと同時に、間抜けな腹の音が鳴る。
慰めて貰えて、安心して、甘えたくなって。
これでは、あまりにも現金すぎる。
けれど、ジェイムズは、優しく笑って済ませてくれた。
「シリアルでよければ、用意しよう。君は、座って待っていなさい」
言いおいて、キッチンに向かおうとする。
声と、表情と、手のひらと、全部で包み込んでもらえたから、それで、許して貰えたのは分かったけれど、だからこそ、その背が遠ざかろうとするのが嫌で。
「ジェイ、ムズ……」
気が付けば、彼の袖を掴んで、引き留めていた。
「まだ、何か?」
苦笑と共に髪を撫でられて、目を覗きこまれる。
「全く。君ときたら、少しも待てないのかね。本当に、君は、いけない子だ」
言われ、赤井は頭を振る。ジェイムズを引き留めた理由など、寂しいから以外になかったけれど、自分は『待て』も出来ないのだと認めてしまうことも出来なくて、
「あ……朝は、トーストの方が、」
でっちあげの下らない理由を口にのぼらせる。
ジェイムズだって、それが赤井の苦しい言い訳だと分からないはずはないけれど、
「ああ。そうだったね。失念していた」
『分かったよ』と、頬にキスされ、
「そういえば、マーマレードが残っていたはずだ。一緒に持ってこよう」
『君の好物だろう?』と言うように、髪を撫でられる。
優作といる時もそうなのだけれど、ジェイムズと一緒にいると、自分が本当に幼い子供に戻ってしまうような感覚に陥って、必要以上に甘えてしまう。
「飲み物は?」
「いる。コーヒー……」
「ミルクとシュガーは必要かね?」
「……うん……、……甘いのがいい……」
近頃滅多に口にしなくなったものをリクエストして、もう一度撫でてもらうため

に、赤井は、ジェイムズの胸に、頭を擦り付けた。

 

***

「ところで――合衆国へは、いつお帰りに?」
ジェイムズの心音を肌越しに温かく感じながら、問いかける。
マーマレード味のキスから始めたセックスは、滅多にないほど優しくて、いっそ冗長なほどに穏やかな愛しさが導く絶頂が過ぎれば、赤井はジェイムズを中に受け入れたままで、とろとろと微睡んでいた。
時折遊びのように奥を突かれて覚醒するけれど、すぐに瞼が落ちてくる。
「ずっと、ここに……は、いてくれないのでしょう?」
そう望むのは我儘だと分かっている。けれど、
「――明日だ」
ジェイムズの寄越した答えは、あまりにも唐突だった。
「明日……」
くしゃりと声が歪む。
「明日、の、いつ……」
「昼の便で。見送りには、来てくれるんだろう?」
赤井に嫌だという暇も与えず、ジェイムズは、上体を起こす。
急に体勢が変わったことで無意識に締め付けを強めた赤井の内側で、熱い情欲が波打った。
「君のヒートも、もうあらかたおさまる頃だろうし――そろそろ、優作に世話を任せても構わないだろう。私は、そうそう長くあちらを留守にしているわけにはいかない。君も、そこの道理はわかるはずだね」
ゆっくりとジェイムズが赤井の中から出ていく。
「……それは、勿論……分かっているつもり、です……」
そう、頭ではわかっている。
けれど、言うことを聞かない心は、どうすればいいのだろうか。

***

飛行機雲が、真っ直ぐに、青藍の空を横切っていく。

「お気をつけて」
「ああ。また、三か月後に――」
では、と手を振って別れ、ジェイムズの乗る飛行機が離陸するのを見届けた後で、優作は、隣にいる赤井の腰を抱き寄せて、一週間ぶりに深く重ねた唇を貪るように味わった。痛みすら伴うような想いで求めていたのは、何も赤井だけではないのだと、彼に思い知らせるために。

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