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Silver Rain
​DC
優作×赤井
age restrictions PG-12

一般的な少年漫画レベルの暴力/流血/死に関わる表現があります。

2016年10月17日
フローティングハート

雨の音が静かに耳を過ぎる、そんな夜には、孤独が冷たく肌身を苛む。

失ってしまってから初めて気づいた彼の優しさは、どれだけ腕を伸ばしてみても、もう僕を包み込むことはない。

けれどもそれが、僕が彼に被せた罪の、その大きさの報いなのだろう。

だから、今はまだ、僕のほうから彼に会いたいと願うことさえも許されないような気がする。

誰にも見せない涙は、彼にすら見せなかった涙は、幾夜の雨と寄り添うように、僕の心に降って、降って、大きな水たまりを作っていく。

雨上がりの朝に、虹は、まだ、かからない。

眠りに落ちるまでのひととき、寂寞に身を切られながらも、一向に鳴らない携帯の、その真っ黒なディスプレイに僕は指を伸ばすことすら出来ず、子供のように身体を丸めた。

あの組織との対決も、僕と彼との対立も、本当は全部幻に過ぎなかったのではないかと思うほど、残酷に、確実に、時間は過ぎていく。

僕は当時の彼の年齢に追いつきつつあって、それは僕を焦燥へと追い立てる。
それだけの年月、彼が変わらずにいてくれる保障なんて、どこにもなかった。

久々にもたれたFBIとの合同捜査会議の場に彼の姿を認めたときには、自分の目を疑った。組織の件が片付いた以上、彼のチームとまた組むことになるなんて、僕だけじゃない、あちらだって考えてはいなかっただろう。

思いがけない再会に胸が逸ったけれど、その澄んだグリーンに、僕はやっぱり目を合わせられなかった。

資料をなぞるだけの会議の内容はこれっぽっちも頭に入ってこようとはせず、真向かいに座った彼の指先の動き、少し退屈そうな表情、邪魔そうに組み替える足、そんなものばかりに目がいってしまう。

一時休憩の声がかかるまでの時間は異様に短く感じられて、けれども僕はその短時間にひどく疲れ切っていて。

「大丈夫ですか、降谷さん」

思わず漏れた溜息に、風見が心配そうに訊いてきた。

少し外の空気を吸ってこよう。

「大丈夫だ、気にするな」

そう応じ、立ち上がった僕の隣を、喫煙所に向かうのだろう彼が、通り過ぎる。

慣れていたはずの煙の臭いが、胸に痛い。

「まだ、時間がかかりそうだな」

擦れ違いざま、自然な仕草で肩を叩かれ、僕は俯くしかなかった。

いい加減、僕は彼の思いに向き合うべきだ。

そう思っても、言葉は出ない。

これは甘えだと、そう、分かっている。

思い出すのは、最後の日。

組織との最終決戦の後だ。

かつての仲間を傷つけ、或いは――死に追いやった。

共にあるべきはどちらかなんて、最初からあんなにもはっきりと明確だったはずなのに、最後の最後で僕は迷い、そのせいで、多くの同胞を失いもした。

彼がいなければ――僕自身、どうなっていたかわからない。

僕も、彼も、心身ともに泥まみれで、どう考えても立っているのさえやっとだったと思うのに、あの別れ際、赤井が耳元に囁いた、その言葉が僕を未だにそ彼の影へと縛り付けている。

降りしきる銀色の雨の中、彼は僕の肩を抱き、

「君はそろそろ、自分を許してやるべきだ」

そう言って、苦しげに笑ったのだ。

「傷ついた過去は捨てられない。お互い、随分遠回りしてきた。今も君の傷は癒えないままだ。が、記憶はいずれ、思い出にすることが出来るはずだ。そう、願っている」

それが何のことを指しているのかは、わざわざ口に出されなくても分かっていた。

あの日、僕は一つの判断ミスを犯して。

それは、親友の死に繋がって。

それを、認めたくなくて。

だから、優しい嘘に甘えた。

彼がFBIの捜査官であることを知った後ですら、僕は真実に近づくことから逃げて、全ての罪と多くの痛みを彼に押し付けてきた。

なにもかもが、僕の身勝手。

僕自身が許されていたいというためだけに、僕が、僕自身についた嘘。

憎しみと、嫌悪と、ありとあらゆる暴言と、暴力と。

僕が彼に与えたものときたら、そんな負の感情ばかりだった。

だというのに、いつか僕が自分自身を許せる日が来るなんて、赤井は本気でそう思っているのだろうか。

いつの間にか、雨の音が止んでいる。

眠れない夜はうっすらと白み、久々に見た彼の顔を思い出させる。

お互い、少し、老けた。

それでも、彼は、まだ待ってくれている。

「いつか君が、抱えた痛みを思い出にして、それでもまだ俺に会いたいと願ってくれるのなら、その時は、また並んで歩き出せるはずだから」

会議の終わり、彼が僕を呼び止めて、言った。

「連絡してくれ。この携帯は、君専用だ」

渡されたのは、真新しい携帯電話。

ほんの少し彼の瞳を思わせる深い海の色。

彼自身も同じものを買ったと言った。

君の瞳と同じ空の色だと言って、笑ってみせた。

「君が、君を許してくれたら、俺も、俺を許せる気がする」

彼は、一度躊躇うようにして、それから僕を抱き寄せた。

それは別れの合図で、そして、いつか来るはずの『その日』への願いだった。

「いつだって、会いに行くよ。君がどこにいても」

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