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おねがい☆テディベア
DC​
安室×赤井
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​全年齢向けです。

2017年10月2日
フローティングハート

やあ、君。
君が『降谷零くん』か。
話には聞いているよ。
ああ、ああ、何も言わなくていい。
大事な人のベッドに俺が寝ていたのがショックだったのは、わかる。
君が言葉を失うのも、致し方のないことだ。

 

だが零くん、聞いてくれ。
 

俺と秀一の出会いは、二十年前。
それは奇跡――いや、運命だった。

意外だと思われるだろうが、俺と秀一の出会いは、ここ、日本――東京だ。
つまり、零くん、俺は君と同郷ということになる。

秀一に俺を紹介したのは、彼の母さんだ。
君はもう、メアリーに挨拶はしたのだろうか。
クリスマスを前にした、玩具屋のショーウィンドー。
きらびやかなモールに飾られた、あの硝子越し。
俺を見つけてくれたメアリーには、感謝している。

あの年のクリスマス、秀一は酷くふさぎ込んでいた。
年下の秀吉にまで、気を遣わせるくらいにな。
君は、きっと大人げないと思うだろう。 
だが、仕方なかった。
秀一にとっては、初めての、父親がいないクリスマスだったのだから。
友人達だって、海の向こうに置いてきていた。
それに当時は、秀一だって、まだ子供だった。
いくら言葉は通じるといっても、ここは日本。
英国とは、文化も考え方も、まるで違う異国だ。
馴染むのに時間がかかったって、何も不思議はないだろう。
だから、俺が初めて目にした秀一の顔は、笑顔なんかでは決してなかった。
だが――それでも、だ。
俺たちは、一目で恋に落ちた――お互いに。
大げさではない。
あの日からずっと、俺は秀一の一番の親友だ。

 

残念なことに、俺は君に名乗るべき名前を持ち合わせてはいない。
秀一は、俺をミスターと呼ぶことが多いが、彼の気分次第で呼び方は変わる。
テディとかテッドとか、たまにはそういう呼ばれ方をすることもある。
メアリーは、俺を『あの子』とか『君』とか呼んでいる。
零くん、君も、俺のことは好きなように呼んでくれて構わない。
俺の本当の名前を、いつか名乗れる日が来ることを願う。

あれは、秀一と出会ってから、一週間後くらいだっただろうか。
俺は、まだ幼かった彼と、約束したのだ。
いつか彼が彼の父さんを見つけ出したら、二人で俺に名を付けてくれると。

 

なあ、零くん。
人生に、これ以上に最高のプレゼントがあるだろうか。
どこかで生きている父を、自分の手で探し出すこと。
それが、秀一の、一番の望みだ。
だから、俺は、あいつが夢を叶えるのを、ずっと待っている。

 

そして、零くん。
話は変わるが、俺は君におめでとうと言うべきだろう。
秀一が俺を君に紹介する気になるまでは、実に長い道のりだったな。
だが、ようやくあいつの気持ちが決まったってことだろう。
プロポーズは、もうされたのか?
それとも、君がプロポーズした側だろうか?
まだ、そういう関係までは至っていない?
そういえば、日本では、君たちの婚姻は認められないのだったな。
秀一は文句たらたらだが、こういうものは、気持ちの問題だ。
 
安心しろ、秀一は、あれで一途だ。
俺は、君たちの未来を、心から、祝福する。

 

あれは、一年ほど前だっただろうか。
俺に、君と付き合うことになったと秀一が報告してきたのは。
秀一は、まだ、不安でたまらないというような顔をしていたな。
君には酷く嫌われていると思っていたようだから。
それでも君のことを話す秀一は、いつも楽しそうだった。

 

秀一と君が出会ったのは、もう何年前になる?
すまないが、組織時代のことは、俺もよくは知らないんだ。
秀一は、あまり当時のことを話したがらない。
君と付き合い始めてからは、少しずつ話題にのぼるようにもなってきたけれど。

 

俺は当時、FBI本部の秀一のデスクを守っていた。
デスクワークが苦手な秀一に代わって、毎日立派に仕事をしていたんだ。
俺は優秀なクマだからな。
たまに可愛い女子職員とお茶に行ったりもしていたが、これは秘密だ。
秀一には、絶対に言うなよ。 

 

ああ、そうだ。
二ヶ月前、君たちは大喧嘩をしたな。
あれはどう考えても秀一が悪かったんだが――、
すまない、零くん。
俺は君を恨んだよ。
それについては、君に謝らなければならないな。 
理由はどうあれ、秀一が傷つくのは、嫌なんだ。

 

どうした、零くん。
なぜそんなに難しい顔をしている?
ああ、そうだ。
君からも秀一の話を聞かせてくれないか?
俺の話を聞くだけでは、君も退屈だろう。
秀一は、君の前ではどんな風に振る舞っている?
好きな相手の前だから、無理して格好つけていないか?
あいつはあれで、好きな相手には格好良いところを見せたいやつだからな。
俺にするような甘え方はしないんだろう。
君もなかなかいい男だから、余計にそうだろう。

さて、問題は、君が俺の存在を受け入れてくれるかどうかなんだが……、

 

答えは、出たかい?

 

***


やあ、零くん。
君と会うのは、一週間ぶりかな?
随分疲れているようだが、仕事が忙しいのか?
君も、相当な激務だろう。
国を守るのも命がけだ。
秀一も俺も、その大変さは、よく知っている。
特に、君は真面目だからな。
だが、君だって、顔ほどはもう若くない。
無理のし過ぎはよくないぞ。
身体は労わってやるべきだ。

 

ところで、秀一はどこへ行った?
君を待たせて、のんきにシャワーか。
相変わらずの長風呂だな。
だが、怒らないでてくれ。
秀一は昔から長風呂で、しょっちゅうメアリーと喧嘩になっていたんだ。
 
風呂といえば、零くん。
君はもう、『があ太くん』とは顔見知りだろうか。
秀一の友人という意味では、があ太くんは俺の大先輩だ。
名無しの俺にもよくしてくれる、包容力のでかい男でな。
があ太くんの小さくてプリティな黄色いボディには、無限大の夢が詰まっている。
まだなら是非とも挨拶しておくべきだと、俺は思う。
今は真純のところにいるはずだから、気が向いたら、遊びに行ってやってくれ。

 

ああ、当然、真純のことは知っているよな?
真純は、秀一の妹だ。
といっても、秀一が米国に渡ってから生まれているからな。
俺も、会ったのは、数年前が最初なんだが。
なんというか――彼女は、初めて会った頃の秀一と、よく似ているな。
がさつで口の悪いところもあるが、いい奴だぞ。
たまに、この家にも遊びに来ている。
昨日はメアリーと一緒だったから、俺も二人と風呂に入った。
シャンプーのいい香りがするだろう?
秀一はお気に召さないらしいが、俺としては気に入っている。

 

ところで、零くん。
俺は君を少し誤解していたようだ。
秀一が言うほど、君は完璧ではないな。
この間泊まりに来たときも、君は寝坊をしただろう。
秀一は気づいていなかったが、君は、焦っていた。
その証拠に、玉子焼きの砂糖と塩を間違えただろう。
秀一の好みは甘いほうだと、俺があれほど教えてやったというのに。
それでも残さず食べた秀一は、よっぽど君に惚れている。
あれがメアリーの飯だったら、一口で拒否しているぞ。
まあ、その後は、いつも大喧嘩になるんだがな。
秀一は好き嫌いが激しいんだ。
君も、彼に野菜を食べさせるのに苦労しているようだから、知っているだろうが。
中でも、ピーマンは大嫌いでな。
あれだけは、今でも結局、克服は出来ていないようだ。
ニンジンは――カレーかシチューにして煮込めば食えるようになったらしい。
有希子さんのおかげだとかなんとか言っていたが。

 

それから、零くん。
最近は、欠かさず朝の挨拶をしてくれるようになったな。
君もようやく、ものの道理というものが飲み込めてきたようだ。
だが、君。
秀一のベッドに無断で潜り込むのは、感心しないぞ。
秀一の一番の親友は俺なのだからな。

いいか、零君。
ここ日本においては、序列というものは、君が思うより大切なんだ。
それを無視してはいけないな。
秀一の隣は俺の定位置。
そうだろう?
そこを間違ってはいけない。

 

ああ――おかえり、秀一。
いつにもまして、長風呂だったな。
まあ、零君と話が弾んだから、よしとしておくが。
ああ、髪はベッドに入る前にきちんと乾かしておけよ。
風邪を引くぞ。

ん?
なんだ、秀一。
シャンプーを変えたのか。
いつもと少し、香りが違うな。
俺は、前の方が好きだったが……まあ、これも悪くない。
だが、俺とお前の香りが違うのは、少しばかり落ち着かないな。
 
なんだ、零君。
君もシャワーを浴びてくるのか。
なんならゆっくり湯船につかってくるといい。
君は疲れているのだから。
俺はその間、秀一と話しているさ。

***


おや、秀一。
どうしたんだ、やけに顔が赤いが。
風邪でもひいたのか?
今日は、久々に零君とデートだったんだろう?
昨日よく眠れなかったから、一気に疲れが出たのかもしれないな。
熱があるなら、もうベッドに行って休もう。
熱が上がったら大変だ。
メアリーも心配するが、もちろん俺だって心配する。
それに、零君が知ったら、彼だって心配するだろう。

ああ、もちろんおまえの話は聞くとも。
大事な友人だものな。
だが、その前にパジャマに着替えてこい。
それと、今日は煙草は禁止だ。
寝酒もほどほどにしておけよ。
大丈夫、俺がついてるんだから、いい夢を見られるさ。

 

おいおい、着替えてこいと言っただろう?
そのまま寝ころぶと、折角のお気に入りが皺になるぞ。
ん?
なんだ?
見慣れない指輪だが、そんなちっぽけな石ひとつで、随分嬉しそうだな。
そんなものより、俺の瞳の方が、ずっと輝いているだろう?

 

そうか。
零君に貰ったのか。
よかったな、秀一。
そいつはスペシャルなサプライズだったかもしれない。
だが、とりあえず今日はゆっくり寝るべきだ。
熱が上がるといけないからな。
大丈夫、俺が一晩中ついていてやるさ。 

 

***

おい、零君。
十日ぶりに訪ねてきたのに、挨拶もなしか。
あいにくだが、秀一はアメリカに帰国中だぞ。
なんでも、ジェイムズに大事な報告があるらしい。

ジェイムズというのは秀一の上司だ。
何も知らない君のために説明しておくと、あれはすこぶる嫌な男だ。
少なくとも、俺は好きにはなれない。
なにしろ、あの男は、俺にはつりあわないといって、秀一を傷つけたからな。
秀一の魅力が分からないなんて、馬鹿げていると、君も思うだろう?
ああ、そうだとも。
俺も、そう思う。
だが、秀一はあの男を尊敬しているからな。
今回の帰国に関しても、秀一は嬉しそうだった。
何しろ、あいつが単身日本に残って、もう二年だ。

 

いや待て、零君。
なにも君が落ち込むことはない。
君も十分魅力的さ。
だから、落ち着け。
嫉妬に狂って俺の首を絞めるのはいただけないぞ。
君は正義を愛する男じゃなかったのか?
おい。
零君、おい。
聞いているのか?
え?
秀一の臭いがする?
こら、嗅ぐな。
君は、犬かなにかか?
嗅いでも、せいぜい煙草の臭いぐらいしかしない。

 

セクハラはやめろ、零君!
 

 

警察を呼ぶぞ!?
 

 

まだ帰ってこないのか、秀一!
 

 

早く戻ってこい!
 

そして零君をどうにかしてくれ!
 

でないと俺が抱きつぶされる!
 

 

 

自慢の綿がつぶれてしまう!
 

 

 

 

ふわっふわの毛が絡まる!
 

 

 

目が飛び出る!!

 

 

 

零君!!
 

 

 

 

 

俺は愛され、慈しまれるべき存在なんだぞ!?
もう少し加減できないのか!?

 

 

ケッコン?
 

 

血痕というとあの血痕か?
現場に不自然に落ちているあれだな!?
俺は物知りだから、なんでも聞いてくれ。

 

コンイントドケ……、
 

形式だけでも……?
 

ふむふむ、アイゾウノモツレというのはいつの時代も強固なドウキだな。
なんだ、サツジンジケンでも起きたのか?

 

タンテイたるものゲンバヒャッペン……、
 

ぐえっ。


だから加減をしろというのに!

***


やっと帰ってきたのか、秀一。
俺は、あやうく零君に殺ぬいされるところだったぞ。
抱き心地が悪くなっていたら、零君のせいだからな。
今度、力の加減というものを教えておいてくれ。

ところで、久々の米国はどうだった?
ゆっくりできたか?
おいおい、久々の再会で嬉しいのはわかるが、お前まで抱きつぶさないでくれ。
俺はデリケートなんだ。
折角のシャンプーの香りだって、もうすっかり抜けてしまっているだろう?
なに?
零君の臭いがする?
徹夜明けの?
おいおい、よしてくれ。
それは俺が臭いと言いたいのか?
随分と心外な話じゃないか。

 

まあ、そんなことはさておき――だ。
FBIの連中は、元気だっただろうか。
やつら、殺しても死ななそうな連中ばかりだが。

 

へえ。
ジェイムズも、もう引退か。
いけすかない男だったが、そう聞くと、少し寂しい気もするな。

 

なんにしても、彼らが君と零君との関係に肯定的なら、良かったじゃないか。
もう引退したとはいえ、お前にとっては大事な仲間だものな。

 

俺もついていきたかったが、立派にハウスガードを務めておいたぞ。
 

なに、大丈夫だ。
零君以外は、この部屋には通していない。

 

俺は優秀なベアだからな。
 

安心しろ。
死角はない。

 

ところで秀一、俺はお前に言っておかなければいけないことがある。
留守中、零君のことが気になるのはわかる。
わかるが、俺に盗聴器とカメラを仕掛けるのはやめろ。
どちらも初日に見つかったし、その場で破壊されたぞ。

 

おいおい、それについては、俺の責任じゃないだろう。
いくら俺がオールマイティでパーフェクトなベアだからといっても、相手が悪い。
あの零君だぞ?
お前だって、彼には敵わないじゃないか。
そいつは流石に、こちらが不利ってものだ。

 

 

 

***

おやおや、零君。
今日は、そんなにめかしこんで、どうしたんだ?
俺の見たところ、君が普段選ぶブランドよりグレードの高いスーツだが。
おい、秀一まで、なんだ。
そんなかしこまった格好をして、どこに出かけるんだ。
流石に俺と似てイケメンなだけあって、お前は何を着ても似合うがな。


ん?
俺も一緒に行くのか?
というか、俺も着替えるのか?

 

おい、ちょっと待て。
零君はあっちに行っていろ。
俺のナイスなボディをみたら、きっと君は自信を喪失してしまうからな。
せめて向こうを向いておけ。

 

おい、零君。
聞いているのか?
 

まあいい、俺は警告したからな。
 

で、どこへ行くんだ?

 

は?
メアリーのところなら、普段着で十分だろう。
今更こんな格好をしていく必要がどこに――、

 

というか、秀一。
お前、わかりにくいが、相当緊張していないか?
自分の親に会うだけだろう?
零君、君だってそうだ。
メアリーとは、もうかなり打ち解けた間柄だろう?
なにをそんなに改まって――、

 

そうか。
務武が帰ってきたのか。
正直に言えば、俺も諦めたほうがいいと思っていたが――、

 

――そういうことも、あるんだな。

 

***

やあ、務武。
初めて会うが、そんな気がしないな。
秀一から、しょっちゅう話を聞かされていたからかもしれないが。
安心してくれ。
秀一は、元気にやっている。
突然父親がいなくなって、随分落ち込んでいた時期もあった。
だが、俺が隣にいたからな。
秀一の笑顔も、泣き顔も、俺が一番よく知っている。
メアリーにだって言わなかった秘密も、俺になら聞かせてくれた。
秀一は、大事な親友だ。

 

正直に言おう、俺は、務武を恨んだことだってある。
あんたに会ったら、一発殴ってやろうと思っていた。
息子をほったらかして、何をしていたんだ、ってな。
だが、こうして会ってみたら、気が変わったよ。
なにより、秀一が、本当に幸せそうだから。

零君。
これからは、君が秀一を隣で支えていくんだな。
もちろん、俺は、秀一の唯一の親友の座を明け渡すつもりはない。
だが――、

 

最愛の人、の地位は、君に譲るよ。
 

健やかなるときも、病めるときも。
君ならきっと、秀一に寄り添ってやれるだろう。
だから――、
最後に呼んでくれないか。
俺の、本当の名前を。

そして、秀一。
お前の一番が俺でなくなったとしても、俺はお前の友達だ。
いつでも、頼りにしてくれて構わない。

 

なにしろ、俺はスーパーでダンディなナイスベア、だからな。
 

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