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その指を絡めて
​DC
​降谷×風見
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全年齢向けです。

2017年3月13日
フローティングハート

「なあ、風見。もうすぐホワイトデーだよな」
俺のベッドで寝息を立てていたはずの降谷さんが、いつの間にか背後に立っていて、心臓が跳ねる。
「そ、そそ、そうですね!?」
「予定、開けておけよ?」
「は、はい、勿論……」
一か月前、『バレンタインデーには好きな人にチョコを贈る』、という発想のなかった俺は、何も用意をしておらず、それどころか、そんな時にばかり重なるアクシデントのせいで、久々のデートの約束までも、ドタキャンしてしまっていた。翌日の夜になって、ようやく『初めてのバレンタイン』という一大イベントを無下にしたことに気付いたというのは、本当に、失態だったとしか言いようがない。
盛大に拗ねた降谷さんを宥めるために、『ホワイトデーにはとびきりのものをプレゼントしますから』と言ったはいいものの、そういうことは生憎得意分野ではなくて、何より、降谷さんはホワイトデーに俺に何かくれるつもりだったのだろうか、とか、そんなことばかりが気になって、結局まだ何も用意できずにいた。
 定番と言えばマシュマロなのだろうけれど、それでは『とびきりのもの』とは言い難い。案外しつこい降谷さんのことだから、そんなものでごまかされてくれるはずがない、とも思う。
本人に今欲しい物を聞いたら、『車』と返ってきたので、残念ではあるが、黙って胸中で却下しておいた。
そもそもホワイトデーに車を贈る、なんてホストに貢いでいるお嬢様でもあるまいし、現実的ではない。そのうえ、買ったばかりの新車が廃車、なんてことになったら目も当てられない。
「お前、今、溜息つかなかったか?」
「いいえ!」
「何か悩みがあるなら、言えよ?」
「何でもありませんよ!!」
大体、降谷さんは、好みの煩い人なのだ。高級志向であるなら、まだ選びやすいのだが、そういうわけでもないので、余計に困る。身に着けるものを贈るなら、本人に選んでもらった方がいいだろうけれど、それをすると、『お前に選んでほしかったのに』などと言って、また拗ねられるに違いない。アクセサリーなら、まだ使ってもくれるだろうかと思うし、バレンタインを無視した(気づきすらしなかった)詫びもかねてと言うのなら、少しいいものを贈っても構わないと思う。
いや、しかし――、
(指輪、なんて、重いよな……)
降谷さんに好かれているとは思っている。というよりも、好きでもない相手を誘うような真似をする人ではないと信じたい。それでも、やはり、こういうものには、それなりの意味があるもので、だから。
「……もう、寝ます」
考えるのを放棄してベッドに潜り込めば、降谷さんの熱が、ふわりと俺を包み込んで、酔夢の内へと誘うようだった。

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